「賃貸アパートの家賃収入があるけれど、年金をもらい始めたら減らされてしまうのでは?」
老後の収入源として不動産投資に関心を持つ方や親から相続した賃貸物件を持つ方から、こうした不安をよく聞きます。
「働きながら年金をもらうと減る」という話は有名なので、「不動産収入も同じ扱いなのでは…?」と心配になるのは無理もありません。
結論から言ってしまいますが……不動産収入があるという理由だけで年金の額が減ることはありません。
ただし、知らないとはまりやすい落とし穴が3つあります。
①管理会社を法人化して役員報酬を受け取ると、年金が減ることがある
②年金額は減らなくても、税金や保険料で手取りが減る
③所得の要件がある年金や加算では、不動産所得が影響する
ということで今回は基本的な仕組みを押さえたうえで、この3つの落とし穴を順に解説します。

不動産収入は「年金額」に影響しない
日本の公的年金は大きく分けて、国民年金(老齢基礎年金)と厚生年金(老齢厚生年金)に分かれます。
老齢基礎年金は収入や所得の多さにかかわらず、保険料の納付実績に応じた額が支給されます。家賃収入が年間1,000万円あっても減りません。
老齢厚生年金が減額される可能性があるのは、後述する「在職老齢年金」という仕組みだけです。この制度が見ているのは「厚生年金に加入して受け取る給与や賞与」です。不動産所得、株式の配当、利子などは判定に含まれません。
つまり…不動産収入があるから年金が減るというのは基本的には誤解です。
年金が減る「在職老齢年金」とは?
では、なぜ「収入があると年金が減る」という話が広まっているのでしょうか。原因はこの「在職老齢年金」です。
これは、厚生年金に加入しながら働く場合(70歳以上でも、厚生年金の適用事業所で働いていれば対象)に、老齢厚生年金の一部または全部が支給停止になる制度です。判定は次の2つの合計で行います。
・基本月額:老齢厚生年金(加給年金額を除く)の月額
・総報酬月額相当額:毎月の賃金(標準報酬月額)+直近1年間の標準賞与額の合計÷12
この合計が基準額を超えると、超えた分の2分の1が年金から支給停止になります。
基準額は2025年度まで51万円でしたが、2025年の年金制度改正により、2026年4月から62万円に引き上げられています。
(例)基本月額が10万円、総報酬月額相当額が55万円なら、合計は65万円です。
基準額の62万円を3万円超えるので、その半分の1.5万円が毎月支給停止になる計算です。
ここで大切なのは、対象があくまで「厚生年金に加入して得ている報酬」だという点です。個人で賃貸経営をしている場合、家賃収入は厚生年金の報酬ではないため、この計算には一切入りません。また停止の対象は老齢厚生年金だけで、老齢基礎年金は影響を受けません。
落とし穴①管理会社を法人化して役員報酬を受ける場合
まず注意したいのが、不動産の管理会社や資産管理会社を設立し、自分がその役員として報酬を受け取るケースです。
法人の役員は報酬を受け取っていれば厚生年金の被保険者になります。すると、その役員報酬は「総報酬月額相当額」に含まれ、在職老齢年金の判定対象になります。
たとえば役員報酬を月80万円に設定していれば、年金の一部が停止される可能性があります。
「不動産収入は関係ない」と思って法人化したのに、法人から受け取る報酬が年金を減らしていた、ということが起こり得ます。
個人で持つか法人で持つかは、年金だけでなく税金や相続、社会保険料の負担も絡む問題です。役員報酬の額を調整するといった対応も含め、税理士などの専門家と一緒に設計するのが安心です。
落とし穴②年金は減らなくても「手取り」は減る
実際に「年金が減った」と感じる人の多くは、年金額そのものではなく、税金や保険料の増加で手取りが減っています。不動産収入は年金額には影響しませんが、税金や保険料には確実に影響します。
◆所得税・住民税
公的年金は「雑所得」、家賃収入は「不動産所得」として、他の所得と合算して税額を計算します。不動産所得(収入から必要経費を引いた額)が増えるほど課税所得が増え、負担も大きくなります。
◆確定申告
年金収入が400万円以下で、それ以外の所得が20万円以下なら確定申告は不要とされる特例があります。しかし不動産所得が20万円を超えると申告が必要です。家賃収入がある方は、原則として毎年申告するものと考えておきましょう。
◆国民健康保険料・後期高齢者医療保険料・介護保険料
これらは前年の所得をもとに決まるため、不動産所得が増えると保険料も上がります。特に、不動産を売却して譲渡所得が出た年の翌年は、保険料が大きく跳ね上がることがあります。
◆医療費や介護サービスの自己負担割合
75歳以上の後期高齢者医療制度や介護保険では、所得に応じて自己負担割合が1割・2割・3割と変わります。不動産所得が加わることで、上の区分に移ってしまう場合があります。
落とし穴③収入や所得の要件がある年金・加算
最後に見落としがちなのが、収入や所得の要件がある年金や加算です。
◆加給年金
厚生年金に20年以上加入した人に、65歳未満の配偶者がいる場合に加算されます。配偶者の年収が850万円未満(所得655万5千円未満)であることが要件です。
◆遺族年金
亡くなった方に生計を維持されていたと認められるには、原則として年収850万円未満(所得655万5千円未満)が目安です。
◆20歳前傷病による障害基礎年金
本人の所得が一定額を超えると、一部または全部が支給停止になります。不動産所得も所得に含まれます。
一般的な規模の賃貸経営で、この基準に引っかかることは稀です。
ただし複数の物件を持つ大規模な大家さんや、売却で大きな譲渡益が出た年は確認しておくと安心です。
あなたはどのケースに当てはまる?
ケース①退職して年金生活、家賃収入が年間300万円
在職老齢年金の対象外なので年金は満額支給されます。一方で、所得税・住民税・健康保険料・介護保険料は増えるため、手取りベースで試算しておく必要があります。
ケース②会社員として働きながら副業で大家業
在職老齢年金の判定に使われるのは給与と賞与だけで家賃収入は含まれません。給与が高めの方は、給与と年金の合計で判定されることを覚えておきましょう。
ケース③自営業・フリーランスで不動産所得あり
厚生年金に加入していないため、在職老齢年金は関係ありません。年金は減らず、税金と保険料の管理が中心になります。
ケース④資産管理会社の役員として報酬を受け取っている
厚生年金に加入していれば、役員報酬が在職老齢年金の判定に含まれます。報酬額の設定に注意が必要です。
賢く付き合うための対策
◆必要経費を漏れなく計上する
管理費、固定資産税、修繕費、ローンの利息、減価償却費などを正しく計上すれば、不動産所得が圧縮され、税金や保険料の負担が軽くなります。
◆青色申告特別控除を活用する
事業的規模(目安は貸家5棟以上、または貸室10室以上)であれば、要件を満たすと最大65万円の控除が受けられます。それ以外でも10万円の控除があります。
◆売却のタイミングを考える
不動産を売ると譲渡所得が出て、翌年の保険料や自己負担割合に影響します。売却する年や方法は、事前にシミュレーションしておきましょう。
◆働き方と年金の受給設計を合わせて考える
会社員として働き続ける場合は、給与と年金の合計額が基準額に近づかないか確認し、必要に応じて繰下げ受給なども検討しましょう。
◆専門家に相談する
年金事務所、税理士、ファイナンシャルプランナーに早めに相談すれば、自分のケースに合った具体的な試算ができます。
まとめ
結論と3つの落とし穴を、もう一度整理します。
【結論】
不動産収入があっても老齢基礎年金・老齢厚生年金の額は減らない
【落とし穴】
①法人化して厚生年金に加入し、役員報酬を受け取ると、在職老齢年金の対象になる
②年金は減らなくても、所得税・住民税・保険料・自己負担割合には影響する
③加給年金や遺族年金など、所得要件のある給付には注意する
「不動産収入があると年金が減る」という不安の正体は在職老齢年金と税金・社会保険料の増加が混ざってしまったものです。
仕組みを正しく理解すれば、必要以上に恐れることはありません。
【注意】
年金制度や税制は改正されることがあります。実際の判断をする際は日本年金機構、税務署、お住まいの自治体の最新情報を確認するようにしてください。
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