「両親が施設に入ってから、実家がそのままになっている……」
「自分が住み替えたあと、今の家をどうしようか?」

こうした悩みが、いま全国で増えています。

総務省の住宅・土地統計調査(2023年)によると、全国の空き家は約900万戸、空き家率は13.8%でいずれも過去最多です。賃貸や売却の予定がなく放置されがちな「その他の空き家」だけでも、約385万戸にのぼります。

その多くは、高齢の所有者が施設に入所したり、亡くなったりしたことをきっかけに生まれています。

そこで今回は高齢者の家が空き家になり放置されてしまう理由、放置のリスク、そして具体的な活用方法と解決策を整理します。

なぜ高齢者の家は放置されやすいのか?

空き家になった家を「とりあえずそのまま」にしてしまうのには、いくつか典型的な理由があります。

①思い出があって決断できない
何十年も暮らした家には家族の歴史が詰まっています。売る、貸す、壊すといった選択には、どうしても心理的な抵抗が伴います。

②家財の量が多く、片付けが進まない
高齢の方の家には長年の暮らしで蓄積した荷物が大量にあります。遠方に住む子ども世代にとって、この片付けだけで大きな負担になります。

③相続人が複数いて話がまとまらない
兄弟が離れて暮らしていると、話し合いの機会そのものが少なくなります。意見が割れると結論が出ないまま何年も経過しがちです。

④所有者の判断力が低下すると手続きが止まる
認知症などで意思能力が失われると本人名義の家は売却も賃貸もできなくなります。この点は特に見落とされがちで、「元気なうちに動いておけばよかった」という後悔の声が非常に多い部分です。

⑤何から始めればよいか分からない
費用の見通しが立たず、相談先も分からないため、結局後回しになってしまうケースです。

放置すると何が起きるのか?

「誰も住んでいないのだから、急ぐ必要はない」と考えるのは危険です。

①固定資産税が大幅に上がる可能性
住宅が建っている土地は、固定資産税が軽減される特例(住宅用地特例)を受けています。ところが、2023年12月施行の改正空家等対策特別措置法により、放置されて「管理不全空家」や「特定空家」と判断されて勧告を受けると、この特例が外れる可能性があります。土地の固定資産税が数倍になることもあるため、注意が必要です。

②老朽化・倒壊・火災などの近隣トラブル
人が住まない家は想像以上に早く傷みます。屋根や外壁の破損、雑草の繁茂、害虫や害獣の発生、不法侵入や放火の危険があり、近隣に被害が出れば所有者が損害賠償責任を問われることもあります。

③資産価値の低下
築年数が進み、傷みが目立つほど、売却価格は下がり、買い手も見つかりにくくなります。「いつか売ろう」と待っている間に、価値が下がっていくのが空き家の現実です。

④相続問題の複雑化
2024年4月から相続登記が義務化されました。不動産を相続したことを知った日から3年以内に登記をしないと、10万円以下の過料の対象になる場合があります。また、相続人が亡くなってさらに次の世代へ相続が続くと、権利者がねずみ算式に増え、誰も手を付けられない状態になります。

空き家の主な活用方法

空き家の活用には大きく分けて次のような選択肢があります。

選択肢向いているケースメリット注意点
売却使う予定がなく、立地・状態が悪くない現金化でき、管理の手間と税負担がなくなる家財整理や境界確認が必要
賃貸立地が良く、将来使う可能性もある家賃収入が得られ、家も傷みにくい修繕費がかかり、入居者が付かないリスクもある
自分・家族が使う子世帯の近くにある、二拠点生活に使えるなど思い出の家を残せる維持費が継続的にかかる
地域・事業での活用広さや古民家の魅力がある地域貢献や収益化ができる改修費や運営の負担が大きい
解体・土地活用老朽化が激しい管理リスクがなくなり、更地で売りやすい解体費用がかかり、更地は固定資産税が上がる
手放す(寄付・国庫帰属)売れない・貸せない管理責任から解放される引き取りの条件が厳しく、費用もかかる

それでは細かく見ていきましょう。

◆売却(最もシンプルな出口)
使う予定がない家は売却が最も確実な解決策です。不動産会社による仲介のほか、傷みの激しい家は「買取」を選べば、現状のまま早く手放せます。仲介より価格は下がりますが、修繕の手間や売れ残りのリスクを避けられます。

◆賃貸(家を残しつつ収益化する)
立地が良ければ、リフォームして貸し出す方法があります。特に注目したいのが一般社団法人移住・住みかえ支援機構(JTI)の「マイホーム借上げ制度」です。50歳以上の方が対象で、機構が家を借り上げて子育て世帯などに転貸します。空室でも一定の賃料が保証され、入居者の募集や管理を任せられる点が魅力です。ただし、賃料は一般的な相場より低めになります。

◆地域・事業での活用(空き家バンクや古民家再生)
自治体が運営する「空き家バンク」に登録すると、移住希望者や事業者とマッチングできます。地方では古民家をカフェや宿泊施設、シェアオフィス、高齢者のサロン、子ども食堂などに再生する例も増えています。改修費に対する補助金を出す自治体も多いため、確認する価値があります。

◆解体・土地活用(ただし更地の税金に注意)
老朽化が激しい家は解体して更地にすると売りやすくなります。ただし、解体費用は木造住宅で数百万円かかることもあります。また更地にすると住宅用地特例が使えなくなり、固定資産税が上がる点に注意が必要です。解体前に売却の見通しや自治体の解体補助金の有無を確認しましょう。

◆手放す(相続土地国庫帰属制度)
どうしても売れず、貸せない場合は相続した土地を国に引き渡す「相続土地国庫帰属制度」があります。建物がないことや境界が明確であることなど条件が厳しく、審査手数料と10年分の管理費相当額の負担金も必要です。最後の手段として知っておくとよいでしょう。

解決策「今日から始められる5つのステップ」

ステップ1:元気なうちに家族で話し合う
最も重要なのは所有者本人が元気で判断力があるうちに話し合うことです。「この家をどうしたいか」「誰が引き継ぐか」「売ってもよいか」を本人の意思として確認しておきましょう。エンディングノートに書き残してもらうのも有効です。帰省のタイミングや誕生日、お正月などに「将来の相談」として切り出すと、話しやすくなります。

ステップ2:家の現状を把握する
次の情報を整理します。
・登記簿上の名義は誰か(亡くなった祖父母のままになっていないか)
・築年数と耐震性、傷み具合
・土地の広さ、境界、接する道路の状況
・固定資産税の金額(毎年の納税通知書で確認)
・家財の量と仏壇、貴重品などの扱い

ステップ3:認知症への備えとして制度を使う
判断力が低下してからでは遅いため、次のような制度を検討しましょう。
「家族信託」信頼できる家族に不動産の管理・処分を託す仕組みです。本人が認知症になっても、家族が売却や賃貸をできます。
「任意後見制度」判断力があるうちに、将来の後見人を選んで契約しておく制度です。
「リバースモーゲージ」自宅を担保に融資を受け、亡くなった後に家を売却して返済する仕組みです。住み続けながら資金を得たい場合に向いています。
※いずれも設計を誤ると意図しない結果になるため、司法書士や弁護士などの専門家に相談して進めてください!

ステップ4:相談窓口を活用する
自治体には空き家相談窓口を設けているところが多く、専門家団体と連携して無料相談を行っている例もあります。2023年の法改正では自治体が空き家対策を担う「空家等管理活用支援法人」を指定できる制度が始まりました。相談先の例は次のとおりです。
・市区町村の空き家担当課、空き家バンク
・司法書士(登記、相続、家族信託)
・税理士(税金、控除)
・不動産会社(査定、売却、賃貸)
・地域の社会福祉協議会(家財整理、見守りの相談)
※不動産会社に相談する時は1社だけで決めず、複数社に査定を依頼して比較するのが鉄則です!

ステップ5:決断までの「つなぎ」の管理を整える
方針が決まるまで時間がかかる場合は最低限の管理を続けましょう。月1回程度の換気・通水・庭の手入れ・郵便物の確認が基本です。遠方で通えない場合は月額数千円~1万円程度で見回りや換気を代行してくれる空き家管理サービスも利用できます。火災保険や賠償責任保険の内容が空き家に対応しているかも、あらためて確認してください。

知っておきたい税制優遇と補助金

「相続空き家の3,000万円特別控除」
亡くなった親が一人で住んでいた家(昭和56年5月31日以前に建築されたもの)を相続し、耐震改修をして、または解体して更地にして売却した場合、譲渡所得から最大3,000万円を控除できる特例があります。相続から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ることなど、細かい要件があり、適用期限は2027年12月31日までです。相続人が3人以上の場合は控除額が2,000万円になるなどの違いもあるため、必ず税理士か税務署で確認してください。

「自治体の補助金」
自治体によっては、次のような補助金があります。
・老朽空き家の解体費補助
・空き家のリフォーム、改修費補助
・家財整理費用の補助
・空き家バンク登録物件の改修補助

内容や条件は自治体ごとに大きく異なり、予算に達すると受付が終了することもあります。工事や契約の前に必ず窓口で確認しましょう。

失敗しないための注意点

①売却や解体を急ぎすぎない
家財の処分や解体は一度行うと元に戻せません。ただし、時間をかけすぎるのも禁物です。「期限を決めて検討する」のがオススメです。

②業者は必ず複数比較する
解体、リフォーム、家財整理、買取は業者によって金額が大きく違います。相見積もりを取り、内容を比較しましょう。

③賃貸経営のリスクを見込む
貸す場合はリフォーム費用を家賃で回収できるかを冷静に試算してください。空室期間や修繕費を織り込んだうえで判断することが大切です。

④「うちは田舎だから無理」と諦めない
立地が悪くても古民家や広い敷地を求める人は一定数います。空き家バンクや専門の仲介サービスなど選択肢は増えています。

⑤感情面にも配慮する
高齢の親にとって家を手放す話は「自分の居場所がなくなる」ように感じられることがあります。「あなたの家をどう大切に引き継ぐか」という姿勢で話すと受け入れてもらいやすくなります。

まとめ

高齢者の空き家は放置すれば、税負担の増加、近隣トラブル、相続の複雑化といったリスクが膨らみます。
一方で早めに動けば、売却、賃貸、地域活用、税制優遇の利用など選択肢は大きく広がります。

つまり…空き家問題は早く動くほど選択肢が広がるということです。

最初の一歩は次の3つです。

①家族で「この家をどうしたいか」を話し合う
②名義、築年数、税額など家の現状を確認する
③自治体の空き家相談窓口や専門家に、まず一度相談する

空き家は放置すれば「負債」になりかねませんが、向き合い方次第で「資産」にも「地域の財産」にもなります。ご家族の思い出の詰まった家を次の世代や地域につなぐために、できるところから始めてみてください。

なお制度や税制は改正されることがあるため、実際の手続きの際は最新の情報を自治体や専門家に確認してください。


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